かつて「究極のエコカー」としてもてはやされた燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)。
水素を使って発電し走るという未来的な技術は、大きな期待と共に登場しました。
同時に、インフラとしての水素ステーションの整備も国を挙げて推進され、多額の補助金が投入されてきました。
しかし、今──。
現実は当初の期待から大きくかけ離れたものとなっています。
なぜFCVは普及しなかったのか?
なぜ水素ステーションも広がらなかったのか?
そこには**「見落とされた本質的な問題」**が潜んでいました。
FCVが抱える根本的な問題
まず、FCV自体に存在する「構造的な問題」を見ていきましょう。
エネルギー効率の低さ
水素は一見、クリーンなエネルギー源に見えます。
しかし、実際には「水素を製造し、運搬し、圧縮・貯蔵し、車両に供給して発電する」という一連のプロセスで、莫大なエネルギーを消費しています。
例えば、
- 電力を使って水を電気分解して水素を作る(ここでロス)
- 水素を高圧にして貯蔵・運搬する(ここでもロス)
- 車に搭載して発電する際にもロスが発生する
これらをすべて合算すると、電気自動車(EV)に直接電気を充電する場合と比べて、効率は半分以下になるといわれています。
いつもの置いとくかw https://t.co/xPAUQkofcs pic.twitter.com/zYC1r4GRTy
— sybit(モデル3 LR乗り)国産でも面白いBEV出ろ (@sybit_gadget) March 18, 2025
オーストリアで全ての公共水素ステーションが閉鎖、コストが下がらず採算が合わないとの指摘。
比較的FCVが多い中国や韓国でも建設だけでなく運営も補助金頼みであり、今の燃料・運用コストでは見合わないとしています👀
From Austria to California: Why Hydrogen Fuel Stations Aren’t Breaking… pic.twitter.com/0eCs3qxpC0
— 🌸Sakura Yae/八重 さくら🌸 (@yaesakura2019) April 24, 2025
要するに、「エネルギーを無駄遣いしながらエコを名乗っている」のがFCVの実態なのです。
コストが圧倒的に高い
燃料電池システムは非常に複雑で、製造コストが高額です。
トヨタの「MIRAI」も、初期モデルは補助金なしでは1台700万円近い価格設定でした。
しかも、水素ステーションの建設費は1か所あたり数億円レベル。
これを全国津々浦々に普及させるのは現実的に不可能です。
一方、EV用の急速充電器は、数百万円~数千万円で設置可能。
コストの面でも、FCVはまったく勝負になっていないのです。
使い勝手の悪さ
水素ステーションは全国でもまだごくわずか。
日常的に使うには「水素が入れられる場所」を探すところから始めなければならず、自由に行動できません。
また、水素の充填も短時間とはいえ、専用設備が必要で、手間もかかります。
一方EVは、家庭用コンセントからでも充電でき、充電スタンドも急速に整備されています。
**「便利さ」**という点でも、FCVは一般消費者のニーズに応えられていないのです。
水素ステーションの普及が進まない理由
インフラ面もFCVにとっては大きな壁でした。
設置コストと維持費の高さ
先述のとおり、水素ステーションの設置コストは非常に高額。
さらに、
- 水素の供給管理
- 安全対策
- 設備の保守点検
など、運営コストも莫大です。
利用者が少ないため、ステーション運営会社は赤字経営を強いられ、補助金なしではとてもビジネスとして成り立ちません。
「赤字を補助金で埋めるためだけに存在しているステーション」が現実となっています。

法規制と安全面の問題
水素は極めて可燃性が高く、取り扱いには厳重な安全対策が求められます。
設置場所に制約が多く、都市部への普及が特に難しいことも、拡大を阻む要因となっています。
一方、EV用充電スタンドはスーパーの駐車場やコンビニなど、気軽に設置できるため、圧倒的なスピードで普及しています。
EVとの決定的な差
ここ数年、EVの技術は急速に進化しました。
- 航続距離は500km超えが当たり前
- 充電インフラも爆発的に拡大
- コストも下がり、選択肢が増加
つまり、消費者にとって「EVを選ばない理由」がどんどんなくなってきているのです。
対してFCVは──
- 価格が高い
- インフラが貧弱
- エネルギー効率が悪い
- メリットがほぼない
という「買う理由が見当たらない」状況に陥っています。
市場がどちらを選ぶかは、もはや明らかです。
まとめ──水素社会は幻想だったのか?
FCVと水素ステーションは、壮大な理想を描いてスタートしました。
しかし、技術的課題、コスト、インフラ問題、市場のニーズとのミスマッチ──
これらが積み重なった結果、普及の兆しすら見えないのが現実です。
今、求められるのは、現実を直視すること。
莫大な税金を投入してまで、FCVと水素ステーションに固執するべきなのでしょうか?
それとも、より合理的で持続可能な選択肢──すなわちEVや再生可能エネルギーとの組み合わせを加速すべきなのか?
未来を本当に変えるのは、効率と現実を重視した技術だと、私は思います。